欠片




 それはディズィーがカイの家の蔵書室で過ごすようになって暫くしての事だった。

 カイの気に入っているレコードラックを一巡したディズィーは仕舞い込まれていたレ

コードを発掘していた。

 仕舞われる時に整頓したらしいそれに、カイの生真面目さが見え微笑が零れる。

 だが一枚、油紙で妙に丁寧な梱包がされたレコードがあった。

 タイトルすら書かれていない油紙自体も草臥れた様子のそれは、他のジャケットケ

ースごと入れられているレコードとは明らかに違っていた。

 首を傾げながら手に取る。

 光沢を無くしたキャラメル色の紙はかさついていたが柔らかかった。

 油紙を持って蓄音機の元に戻る。

「気になるレコードはありましたか?」

「カイさん、これって中身は何ですか?」

 針を取り付けるサウンドボックスの調整していたカイに手に持っていた正方形の油

紙を差し出す。

 ディズィーから手渡された物に見覚えがないカイは首を傾げた。

「何処から持って来たんですか?」

「レコードの箱に入ってました」

「こんな物を入れた覚えはありませんが……」

 留め紐を解き油紙を開くと硬い、やはり無地の紙のケース。それから更にパラフィ

ン紙に包まれた厚紙のレコードケースが出てきた。

 半透明の紙に透けるレーベルにはQueenの文字。

 心当たりのある人物が浮かび上がる。

 何時だったか、ふらりとあの賞金稼ぎがこの家にやって来たのを思い出した。

「気紛れではなかった、ということか……」

 不思議そうに見上げるディズィーにこれはソルの物だと言うと顔を輝かせて聞きた

いと強請られた。

 基本的に古典音楽しか聞かないカイは少しばかり迷ったが、二百年前の音楽へ

の興味が勝りパラフィン紙を外し、慎重に中のレコードを引き出した。

 傷も撓みも無い艶やかな黒い円盤を乗せ、念のためアームと針圧をやや低めに

設定し直す。

 流れてきた音はノイズもほとんど無く、いかに大事にされてきたのかがよく解った。

 ふと、カイは二世紀を経た音楽にレコードの持ち主を思い浮かべ、知らぬ間にとは

いえその記憶の一部を託された意味を考えた。

 カイはソルに対しては様々な感情が入り乱れた激情を抱いている。

 それは強さへの羨望であったり、打破したいという意志であったり、同じ戦場を駆

けた親近感であったり、しかし何かを隠され続けているという疎外感であったりした。

 それらが集束した激情はソルがGEARである為に一時は本気で殺意すら抱いてい

た。

 だが今は自覚のない満足感が尖鋭的な感情の名残を疼せただけに止まる。

 今度顔を合わせた時はこのレコードを置いていった理由を訊き出そうと、カイはそ

っと胸に誓った。

 


'11.07.22  月代 燎
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知らない間にソルの大切な物を預かっていたカイ。
昔書きかけで放置していたものに手を加えてみました。
ちょっと今文章が書けなくなっているのでリハビリ中です。
しかしこれぞやまなし、おちなし、意味なしですな。

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